「ユキ、あのね、今年はいつもと違ってちゃんとした本命用を作ったんだよ。
頑張ったんだ、────最後のバレンタインだから」
だから受け取って。
そっと震える指先が触れた。
きっとこれが最後だと思うと絡めたくなる思いをクッキーの入った箱ごと放した。
「僕、黒沢より好きな子ができた。
もう……そばにいられない」
強くて、濡れた瞳。
こんな時だっていうのに、新しく知った彼の一面に胸が騒ぐ。
大丈夫、わかっていたことだ。
終わるならきっと今日だと、そうずっと思っていた。
だってユキをこんなに弱くて強い人へと変えたのはあたしじゃないから。
「ずっといるって言ったのに、約束破ってごめん」
破ってない、ユキは『ずっと』そばにいてくれた。
あたしたちの『ずっと』が終わってもいてくれた。
「ちゃんと、好きだったよ」
知ってるよ。
「元気でね」
あなたも。
────その全てを笑顔で応えた。

