「ソファー、買うか」
「ムリ、私、お金ない」
「オレ、ちょっとある。
しかも、カツオが言ってたけど、ゲージュツの仕事が決まりそう」
「え! すごいじゃん!」
「うん、ちっちゃいライヴだけど、オファーがあったらしい。
少しだけどギャラも出るって」
近頃の私は結婚も諦めモードだ。
この男が居る限り、私は他の男と結婚なんかできないだろう。
結局、すったもんだの末にもとの鞘に収まるのがオチなのだ。
10年の年輪は深い。
かといって、拓が私と結婚してくれるとは思えないし。
もしかしたらこのまま一生独身貴族かも。
すげーだろ、と誇らしげに笑う拓の顔を、私は寝ぼけ眼のまましげしげと眺める。
そうして思う。
この男はゲージュツと結婚したのだ。
あのイベントで生き生きとした拓の姿を見て、それが何となく理解できた。
……仕方がない。
惚れたが負け。
けど、捨てられたら、一生恨んでやる。
「今度のはさ、奮発して、レザーにしようぜ。
一生使えるようなヤツ」
「レザーなら、ベージュ系がいいな」
「黒だろ、絶対」
「……そだね。
汚れも目立たないし。
また色塗られたらヤだし」
よっこいしょ、とベッドから起き上がる。
ヒーターを稼働させ、拓はいつものつなぎ姿に着替えた。
ドアを開けたら、キッチンからは拓好みのコーヒーの匂いが漂ってくるだろう。