305号室の男。【完】

「お姉さん…?」



お姉さんの様子がおかしくて顔を覗き込んだ。



「奈緒ちゃん…、ごめんなさい…。母親が傍にいながら、また奈緒ちゃんをツライめに合わせてしまって…」



お姉さんは泣きじゃくり、その場にしゃがみ込んでしまった。



「お姉さん、もう顔上げて…?」



「詠二の時…。どうして母親が傍に付いていなかったのよって、何度も何度も思ったわ…。なのに、自分も同じことをしてしまうなんて…、母親失格だわ…」



顔を上げるどころか地面に額を付ける、お姉さんを見ていられなかった。



「お姉さんは、悪くない…。陸斗くんだって、助かったんだし。ね、大智さん?」



あたしがお姉さんを責めれば、大智さんが体を張って助けたことの意味がなくなる気がした。



それは、詠二の時にも同じことを思った。



だから、あのお母さんにも責めることができなかったんだ。



「あぁ…」



短く返事をした大智さん。



詠二の時同様、苦しそうな顔があたしの胸を締め付けた。