305号室の男。【完】

「奈緒、道案内できるか?」



「えっ、あ…うん」



今は、大智さんが運転する車の中。



急に現実に戻されて、戸惑ってしまった。



「具合でも、悪くなったか?」



右手でハンドルを握りながら、目だけあたしに寄越した視線。



「う、ううん…。何でもないよ、大丈夫」



大智さんと一緒にいるのに、考えるのは詠二のことばかり。



好きと言ってくれた大智さんに対して、失礼だよね。



「詠二のことか…?」



「えっ……」



急に、大智さんは車を路肩に止めた。



「行くの、やめるか?」