黄色い線の内側までお下がりください


 薄い紫色に染まった空に白く輝く星が出始めた頃、ホーム上の空気の流れが変わり始めた。

 昼間いたはずの鳩は忽然と姿を消し、かわりに黒いカラスが羽を大きく広げながら飛び降りてきた。

 魚の腐ったような臭いが鼻につく。その臭いの正体は、ベンチに座って体を左右に揺らしながらうつろな目を宙に漂わせているあざみからだ。

 ホームの下からは顔面がドロドロに溶けた桜があざみを呼ぶように骨の見えた手でホームを叩いている。


 桜はホームには上がってこれない。


 ベンチに座っているあざみを恨めしそうな目で睨むたびに、その眼孔から目玉が落ちそうになる。そのたびに手で押し戻していた。


 そんな桜を感情の無い目で見ているあざみは小さく鼻で笑って視線をまた宙に戻した。




「...来るから、待ちなさい」



 電車の入ってくる方に顔を向けた。

 富多子が乗った電車が来るということを桜に向けて言うと、桜はかっ裂かれた喉から黒く腐った臭い血液を吐き出しながら何かを叫んでいた。


「......そんな喉じゃ何言ってるか分からないわよ。喚くのは私じゃなくて、あいつにしなさい」



 憎しみを表情に現し、鼻の上や額に皺を寄せて睨み付けると、眼球が眼孔からこぼれ落ち、肉が削げて頬骨が剥き出しになった。

 折れ曲がった右足と上半身をホーム上に乗り上げ、黄色い線に手をついた瞬間、バチンという不愉快な音と火花を立て、桜は線路上に叩きつけられた。