「そういえば塚越から電話いったか?
悪かったな、勝手に番号教えて」
とりあえず、永井以外の教師にパンフレットだけ配って職員室を出ようとした時、永井にそう呼び止められた。
「あ、いえ。
ちゃんと連絡きましたよ。
でも安心しました。
今年も南丘銀行から求人が来た事聞いて」
みのりが振り向きながら言うと、永井が自信ありげに笑った。
「そりゃそうだろう。
佐倉は学年からオレが選んだ生徒なんだから」
永井の言葉になんて答えればいいのか分からずにとりあえず笑って見せた。
そして来週来る約束をして職員室を出た。
静かな廊下を歩いて玄関に向かっていた時、1人の女子生徒とすれ違った。
すれ違った瞬間、勢いよく振り返った女子生徒に、みのりも少しびっくりしながら振り返る。
でも見た事のない顔に記憶をフル回転させていた時、女子生徒が口を開いた。
「あのっ…佐倉先輩ですよね?!」
どこかで聞いた事のある声に、みのりが小さく笑顔を作って頷くと、女子生徒の表情がパッと明るくなった。
「あたし、塚越です!
この間電話した塚越です」
塚越の明るい笑顔を見たみのりの表情が、一瞬だけ曇る。
あまり会いたくなかった思いがどこかにあって…
でも、塚越の笑顔に、みのりも無理矢理笑顔を返す。
「部活の用事でちょっと来ただけなんですけど、佐倉先輩に会えるなら来てよかったですっ」
少し恥ずかしいくらいの素直な塚越の笑顔に、みのりがそっと目を逸らした。
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