「……」
張り合うつもりなんかなかったのに、なかなか譲れなくて…
確かに初めに見た時、塚越の姿に1年前のみのりを思い出した。
だけど…
1時間の教習で、塚越がみのりと重なる場面なんか一度もなかった。
雰囲気だって、話し方だって、声だって、みのりの方が柔らかい。
南商の制服を着ていて就職組で南丘銀行を受ける。
その境遇は似てるが…それだけだった。
「佐倉の方が可愛いか?(笑)」
わざと答えにくい事を聞いてからかう渡辺に、浅井が苦笑いを浮かべる。
タバコの先に溜まった灰を灰皿に落としながら、浅井が緩めた口元から煙を逃がした。
「…さぁ(笑)」
ククっと喉に笑いを溜めた渡辺に、浅井は終始苦笑いを浮かべていた。
自分の彼女が一番可愛いのは当たり前なのに…
わざと聞いてくる渡辺は本当に意地が悪い。
なのに憎めないのは、渡辺の人徳。
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