アパートに着くまで、浅井もみのりも特に悠太の事を話さなかった。
隣で窓の外を見つめるみのりの様子を伺いながら、浅井が出しかけた言葉をしまう。
今みのりが何を考えているのか気になって…
悠太の事を考えてるのか気になって…
だけど運転片手に持ち出せるような話には思えなかった。
アパートまでの道をただ押し黙って車を走らせた。
隣にいるみのりは、黒のワンピースのせいか、アップした髪のせいか、いつもとは違う雰囲気を感じさせる。
そんなみのりに余計に不安が募って…
浅井がみのりの手を握った。
膝の上に置いていた手を突然握られたみのりが浅井を振り返って…
その手を握り返す。
「浅井さん…」
「…ん?」
「…大好き」
イライラしている自分を気遣ってか、急にそんな事を言い出したみのりに浅井が苦笑いを浮かべる。
みのりに気を使わせてしまう大人げない自分に、嫉妬深い自分に嫌になりながらゆっくり口を開いた。
「オレも」
やけに混んでいる道が、煩わしくて仕方なかった。
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