「そんな事…

浅井さん、こないだ言った事は本当に…」


「いえ、いずれは考えなくちゃいけない問題だったんです。

小田切さんの言葉がきっかけになっただけで、僕の中にもずっと疑問はあったんです」


はっきりと告げる浅井の言葉には、もう何の迷いもないように感じた。


ふわふわと揺れるカーテンの向こうで、浅井がどんな表情を浮かべているのか想像すると…胸の奥がキュッと鳴った。


「みのりは、きっと僕といるよりも悠太くんといた方が幸せです」


浅井の言葉に、みのりの目の前が真っ暗になった。


唇も喉も…からからに渇いてしまって、声も出ない。


『悠太くんといた方が幸せです』


そんな訳ないのに…

絶対にそんな事ないのにっ…

声が喉に詰まって、呼吸するのも苦しい。


溢れ出そうとする涙が余計に喉を狭めて、胸を苦しくさせる。


体に力が入らなくて、手に持ったカバンを落とさないようにするのがやっとだった。


秋の風が、みのりの頬を掠めていく。


その風に、みのりの涙が一滴、静かに落ちた。



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