「あのね、このクマのおかげなんだよっ
あっ青いのがね、部屋にあるから見せてあげるっ」
キラキラと目を輝かせた男の子の申し出を断るのは胸が痛んで…
みのりが困ったように微笑んでから頷いた。
浅井が行ってからまだ数分しか経っていないし、すぐ戻ってくれば大丈夫だと思い、男の子にカバンを引かれるままエレベーターに乗り込む。
「今日はねっパパも来てるんだっ」
「へぇ、そうなん…」
笑顔を浮かべていたみのりの顔が固まったのは、男の子の指が5階を押したからだった。
5階…産婦人科病棟。
沙紀や悟だけではなく、春子や悠太、今は浅井までいる階…
「ね、お姉ちゃんやっぱり…」
断ろうとした時、エレベーターが「チン」と綺麗な音を立てて5階についた。
「こっち」
笑顔を向ける男の子に引きずられるように連れてこられた病室は521号室。
沙紀や春子の病室とはだいぶ離れた病室に胸をなで下ろしてから、病室に入った。
「ママーっ
ママの病気を治してくれたクマね、このおねーちゃんがねっ…」
病室に留まらず、フロア全体に聞こえるような声に、みのりが笑った。
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