「すぐ戻るから、みのりはここで待ってて」


病院のロビーまで来た時、浅井がみのりの頭をぽんと撫でた。


自分がいたら出来ない話なのかと不安になりながら、みのりが笑顔を作る。


「うん…わかった」


そんなみのりに微笑んだ後、浅井がエレベーターに乗り込んだ。


土曜日の病院のロビーは薄暗く、お見舞い客の姿や、リハビリする患者の姿が所々にあるだけだった。


夕方の16時という中途半端な時間帯のせいもあるのかもしれない。


浅井の乗ったエレベーターの扉が閉まるのを見てから、みのりが小さなため息をついた時…

くん、と持っていたカバンを引っ張られた。


びっくりしたみのりが振り向くと…

そこには誰もいなくて。


「おねーちゃん」


随分下から聞こえた声に、みのりが視線を移す。


すると、見覚えのある赤のくまのぬいぐるみを抱いた男の子が立っていた。


「あ…ゲームセンターの…?」


みのりが驚いた顔で見ていると、その先で男の子がにっこりと笑った。


「ママがねっ、今日で退院になったんだよっ」


ロビー中に響き渡るような声で言った男の子に、みのりが周りを気にしながら笑顔を返した。


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