ただ…

塚越の気持ちの矛先がみのりに向かう事だけが怖くて…




…―――キーンコーン…


「さて、行くか」


渡辺が背伸びをしながら職員用入り口から外に出る。


浅井もそれに続いた。


重い気持ちを抱えたまま20番の教習車の横に立つ塚越に近付いた。


18時を過ぎた夏の空はまだ夕日を浮かべていた。


オレンジ色に照らされる教習車の間を抜けて塚越の助手席に乗り込んだ。




教習が後5分程度で終わる時だった。


公道を回っていた教習を終え、教習所に戻ってきた時、それまで静かだった塚越が浅井に声をかけた。


「浅井さん…この後食事に行きませんか?」


塚越の誘いに浅井が少し黙って…なるべく逆撫でしない言葉を選び出す。


「教習生とはそうゆう事しちゃいけない規則なんだ」


こんなに塚越に気を使うのも正直疲れてきた。


好意でも持っていれば気にならない。


相手を傷つけないような言葉を選ぶのは当たり前だから。


だけどどうしても塚越に好意を持つ事はできなくて…

そんな塚越との教習が浅井を疲れさせる。


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