去年と何も変わらない横断幕に笑みをもらしながら、広い白い石の階段を永井と降りる途中…
「わっ…」
「佐倉っ…危ないなぁ(笑)
おまえ、こっから落ちたら骨折は必至だぞ」
ヒールを踏み外したみのりを支えた永井が、苦笑いを浮かべる。
「すみません…ヒールが(笑)」
「そんな細いヒールなんか履くからだよ。
あ、代わりにオレのスパイクを…」
「要りませんから(笑)
職場の床傷つけちゃうじゃないですかっ」
体制を立て直してから笑うと、永井が支えるために掴んでいたみのりの腕を離した。
「だけどさすがですね。
もう40なのに力ありますよね」
「毎日毎日鍛えてるからなぁ。
ただ焼けてるだけじゃないんだよ(笑)」
いかにも体育会系の爽やかな笑顔は40歳になっても健在だった。
グランドに入った途端に鬼になる永井も、普段は明るく親しみやすいと生徒に好かれていた。
「じゃあ来週よろしく」
「また学校に連絡入れますね」
片手を上げてグランドに向かう永井に軽く会釈をしてから背中を向けた。
空高くから照らす太陽が、また永井の肌を黒くしそうだった。
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