落ち着こうと深く息を吸うと、一気に冷たい空気が肺に流れ込んできて苦しくなった。
どこかで大丈夫だと思い込んでいた自分に嫌になる。
1年前の自分と同じ立場の塚越を、浅井が好きにならないなんて保証はどこにもないのに…
それでも…
『佐倉先輩には止められませんよね』
見ているしかできない自分が…嫌で嫌で仕方ない。
「無理言うなよ(笑)
塚越だけ特別扱いする訳にはいかないんだよ。
みんなが送れって言い出したらオレの体がもたねぇよ」
なんだかはっきりとしない断り方をする浅井に胸が苦しくなった。
クスクスと嬉しそうに笑う塚越に視線を送っていると、みのりに気付いた浅井が笑顔を向けた。
塚越に向けていた笑顔と同じ笑顔を…
「みのり、もう終わるから待ってて」
そう言っていつもと同じようにみのりの頭を撫でた後、浅井が自分の机に戻り整理を始めた。
驚いた表情でみのりを見つめる塚越と目が合って…
キツい眼差しを送ってくる塚越に、みのりから目を逸らした。
『佐倉先輩っ』
笑いかけて慕ってくれていた塚越の影はどこにもなくて、そんな事に少しだけ悲しくなって…
でもそれ以上にさっきの浅井と塚越の様子が悲しくて…
みのりが落ち着こうと椅子に座った。
ロビーの固い椅子。
去年の夏、ここから何度も浅井を見つめた事が鮮明に思い出される。
ただ想ってるだけだった自分が…
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