――15年前、ヴァンパイア界でひとつの事件が起きた。

王家の王位第一継承者である王子が、忽然と姿を消した。

王家の事なんてたまに耳にするくらいで、王家の血を直接継ぐヴァンパイアなんかと会う機会は、普通はない。
どんな生活をしているのかも、その容貌も、王家の暮らす古城で働く人しか知らない。

ただ、すごく高貴な方々。
随分漠然とした説明だけど、小さい頃からそう言って育てられてきたヴァンパイアがほとんどだと思う。

耳にするだけで、実際には高い塀の向こう側で暮らす王家一族を身近に感じた事がない。
架空の人物に思えるほど、崇敬すべき存在。

「“王家の王位第一継承者である王子が姿を消して、15年目になる。
我々ヴァンパイアは、ハンターに王子を奪われた事を決して忘れる事なく……”」

ポストに届いていた、おばあちゃんからの手紙。
その中に入っている一枚を取り出して音読してから、ソファに座る二楷堂を見た。