「そもそも天使なのにルーインって変な名前じゃない?」
 
 アンジュラに素朴な疑問をぶつけてみた。

 とりあえず何かを話してないと沈黙は耐えられない。だって、私たちは今並んで歩いているけれど、さきほどのルーインのところとは違い、徐々に暗くなってきている。気がする。だから、

「逆だったらよかったのにね」

 と、横にいるぬぼーっと高い黒い塊に言葉を投げてみた。

「逆とは何がですか?」

「名前だよ。アンジュラの方がなんていうか、天使っぽいし。ほら、名前もまんまそうじゃん」

「はぁ、それは私にとっては全く嬉しいものではないですね。今すぐにでも変えてほしいくらいなんですが、そう簡単にもいきませんし」

「それはそうと、なんで死神なんてやってんの?」

「それは翠さん、なんで人間やってんの? と聞くのと同じようなことですよ」


 くくくっと笑って肩を震わせた。

 
 でもそうか、なるほどそうなのか。
 
 アンジュラも生まれたときから死神ってことか。
 

 運命って過酷だなぁ...


「そうでもないですよ。与えられた場所にいるということは幸せなことです。他から見たら過酷と思えるかもしれませんが、そこにいる当事者にとっては居心地のいい場所なんですよ」

「ねえ、本当に死神? 間違えたんじゃない?」

「ははは。翠さんは死神や天使にどんな先入観をお持ちなんですか?」

「ルーインも同じこと言ってた」

「そうですか」



 先入観か。

 死神は死ぬときに現れて魂を体から抜き取る悪魔みたいなもので、天使は優しくて慈悲深くて側にいたら落ち着けるような、そんな感じかな。