死神の手を左右上下斜め右左に振り回しなんとか振りほどいた。

「待ってて!」
「待ってて?」
「そう」
「なぜ」
「はっきりさせるから。これじゃ私、死んでも死にきれない。許せないよこれは」下を指差し、

「なんか私このままだとどっちの世界でもなあなあになってくような気がする。だから、」
 
 亮の前に、彼の目の前に戻って視線を合わせる。左斜め下には自分の顔。自分の顔を自分の目で見るってことがないからか、近くで自分の顔を見ると複雑だ。

 いつ見ても可愛くない。もっとこうなんていうか、誰が見ても可愛いね! って言われる顔に生まれたかった。
 意識の戻らない私の手をしっかり包んでさきほどからと変わらない体勢で私の顔を覗き込んでいる亨は目に涙を浮かべている。鼻水も出ている。ついでによだれらしきものも垂れ流しになっている。眉間に皺が寄る。
 
 はたして私は本当にこいつと一緒にやっていくことができるのか? やっていきたいのか? なんか目の前にいるこいつは情けない。
 死神の言う通り、このままこっちに来ちゃった方が私のためなのか。そもそもそんなシステムがあることが分かってたら、じゃんじゃんこっちの世界に流れ込んで来ちゃうじゃん。だって死ぬのは怖い。でもここに来たらもう死ぬこともない。無限に生きられるわけだ。それにこうしてたまには人間の生活を垣間見れたりする。

 それなら断然こっちの世界の方がいいじゃないか。