【死神】 


 さて、戻れないぞ......と



 死神と向かい合って、

 ややしばらくの時間が経過している。

 膝を突き合わせて正座をしている私の目の前には、手触りの良さそうな真っ黒いローブで頭から足先までをすっぽりと隠し、首切り鎌をローブの中から背中に預けている(たぶん)男が一人。
 
 真っ白い指はすらりと骨張っていて、膝あたりであろう場所に申し訳なさそうに置かれている。
 
 そわそわしながらその指を忙しなく動かしているが、顔はローブに覆われていて全く見えない。


「で、私、そろそろ帰りたいんですけど」

「あの……ですからそれは致しかねると言い続け、かれこれこれで5回目で……」

「だからなんで帰れないの?」

「それもさきほどから申し上げているようにですね」

「だって私、自殺なんてしてないんだからここにいる理由は無いよ。絶対にしてないもん」

「ええと……もし、翠(みどり)さんが自殺をしていないというのなら、私はここにいないわけでして」

「だって本当にしてないもんはしてないし! そっちが間違ってるってこともあると思う」


 力強く言ってやった。


「はぁ……こちらが間違ってると……」

「そう」


 きっぱり言ってやった。