「あ、よかったです」


堂本の大きな手に収まる程のリップグロスを見て楓が言った。


「この前ん時に無くしたっぽいっつってわざわざ呼び出しやがって、あいつ」
「…あの時の人、ですか…?」
「おお。もうだいぶ経つんだから諦めて忘れてろっつーの」


堂本が親指と人差し指でグロスを挟んで呆れ顔でそれを弄ぶ。
そして何かを思い出した顔をして、楓を見た。


「そうそう。余計なお世話とは思ったんだけど、そいつが押し付けるから」


堂本が話すことに首を傾げながら楓はガサッと目の前に差し出された紙袋に視点を合わせた。


「…これは?」


中身がわからぬものに、簡単に手を伸ばせなくて楓は先に聞いた。
それでも堂本は、半ば無理矢理その紙袋を楓に押し付けて受け取らせると、説明する。


「服。つっても趣味違いそーだけどな」
「え?」
「『あんな部屋着一枚じゃ可哀想!』って怒ってよこしてきた。まぁ…確かに気ィきかなかったな」
「そんな……!」


首を大きく横に振って、楓は恐縮する。
そして紙袋からのぞくその衣類に視線を落としながら言った。


「あの人は…堂本さんの…?」


恋人、婚約者…または妻か。
どちらにしても、深い関係のように思った楓はそんなニュアンスで質問する。
しかしそれを受けた堂本は目を丸くして即答した。


「まさか! 楓がどんな想像してるか知らねぇけど、やめてくれよ」


肩を上げて鼻から大きく息を吐きながら堂本が続ける。


「あいつはただの…同志みたいなモンだな」
「彼女とかじゃ」
「あーあーあり得ん。おれは生涯独身だ」


カウンターチェアに座って、くるくると回りながら目を瞑りながら話す堂本を見て拍子抜けした。