「今回のこと、もちろんオレも感謝してます。けど……」


圭輔は自分の手の中にある一枚の紙に視線を落として、言いたいことを濁した。

その様子を横目で見て、顎を撫でながら堂本は笑った。


「“もしかして、恋愛感情があるんじゃ”って?」


圭輔は勢いよく顔をあげると、それを見た堂本は見透かすような目で圭輔を見ていた。


「お前。おれがいくつだと思ってんの? あいつをそういう対象で見たことねぇよ。大体あいつはもう、おれとは関係な、」
「でも、もうしばらく――姉をよろしくお願いします」
「はぁ?」


圭輔が言葉を被せて言ったことに、思わず気の抜けた声が出る。

飾らない堂本に、圭輔は心からそう思えた。
そして吹っ切れた顔でさらに伝える。


「姉はあなたの傍に、もう少しだけ居たい、と思ってるようですから」


圭輔は言い終わると、にこっと笑って深く頭を下げる。
そしてくるりと体を回して足を踏み出し歩き始めると、堂本がぼそっと漏らす。


「『どうして』って言ったな……」


圭輔が振り向くと、今にも落ちそうな夕陽が眩しくて、堂本の表情が見えない。

でも、そこに立って動かないところを見ると、自分に何かを話したのだと思って堂本の出方を待った。


「……あいつ。楓はおれの好きな女に似てたから」


表情を見なくとも、今背中に背負っている、蒼く変わろうとしている空のような物悲しさが感じられた。


「もちろん今は、ちゃんと“楓”として大事なヤツだけど。ただキッカケは、正直言うと、そんな単純な理由だ」


堂本は自分の長く伸びた影を、ぼんやりと見つめながら最後まで独り言のように呟いていた。


「その人は、いま……」
「さぁな。ずっと会ってない。まぁ元気に生きてるらしいって最近知ったけどな。――――圭輔、お前と一緒だよ」
「……え……?」


とうとう夕陽が頭を残す程度に沈んだ時、圭輔は堂本の顔が見えた。

地面に落とされていた視線が、自分に沿って上ってくるのを感じて動けなくなる。

そして目が合ったと同時に、耳を疑う言葉が聞こえてきた。


「おれも姉貴が好きなんだ」