「今は親栄会でそこそこいい顔になったのかい?」

「頭の西尾さんに目を掛けて貰ってますんで」

「そうか。今の親は三輪かい?」

「いえ。盃を頂いたのは、辰巳さんからで、今は務めに行ってます。近々、三代目から盃を頂く事になってまして、辰巳も今回の懲役が長くなるから跡目を自分にと言ってくれてます」

「そうか。いい兄貴分と親に恵まれたみたいだな」

「はい、お陰様で……匡さん、今日はそういった話しをしに来た訳じゃ無いんですよね?言い出しずらい事なんですか?遠慮しないで何でも言って下さい」

 松山は澤村の気遣いを有り難いと素直に思った。

 どう話しを切り出そうか迷っていた所だったから、澤村の言葉は渡に船であった。

「この前、俺に話してくれた例の男だが、その後は見掛けたか?」

「あの後、一度、今度見掛けましたら、匡さんに連絡しましょうか?」

 澤村は何かを察した。

 松山の眼差しや物腰から、言葉では言い表せない何かを感じ取った。

「今もその男は三輪の所に?」

「多分、ただ……」

「ただ?」

「これは、聞いた話しですから定かでは無いのですが、どうも表向きは堅気として会社か何かを任されているようなんです」

「金融とかか?」

「いろいろ、ですね。その辺もきちんと調べて置きます」

「余り無理するなよ。お前自身の立場が危うくなるようなら、何もしないでくれ」

 澤村はニコッと笑い、

「今更それは無しです。匡さん、何も聞きませんし、何をお考えかも詮索はしません。自分が勝手にお節介を焼かせて貰うだけですから」

「ありがとう……」

 深く頭を下げる松山に、澤村は逆に恐縮した。

「俺、嬉しいんですよ」

「……?」

「今夜の匡さん、昔の匡さんに戻ってます。匡さんは、自分にとって、水嶋の兄貴と共に憧れでしたから……」

「ばかやろ……」

 松山の目が、少しばかり潤んだ。

「いいか澤村、この先、何がどうなるか判らないが、一つだけ言って置くぞ。絶対に俺との関わりを周りに気付かれるな。いいな。お前は上を望める男だ。三輪風情の風下に何時迄も居る男じゃない。頼み事をしといて妙な話しだが、判ったな」