「児玉先輩お久し振りです。OB会とかにもこのところ顔を出してませんでしたよね」

「うん。娘がずっと入院してたものだから。それより、今日は久し振りに君の顔を見たくなってね。もうそろそろ仕事、上がりなんだろう?」

「お誘いは嬉しいのですが、近いうちに積み荷が入る関係で、ちょっと忙しいんですよね」

「ふぅん……やはり防衛省の?」

「ええ、まあ……」

「そうか、じゃあ、この次の機会という事にするか。来週位はどうだい?」

「そうですね、来週の月曜日なら大丈夫だと思います。」

 来週の月曜日。

 五日後だ。

 船は二、三日中に入港する……

「判った。じゃあ、又、連絡するよ」

「せっかくのところを済みません」

 児玉はこの事を直ぐに野島に電話した。

(その船便で間違い無いですかね)

「100%とは言えないが、ほぼ間違い無いだろう」

(その際の警備体制とか判りますか?)

「滝沢が直接関わっている警備会社が担当する筈だ。通常でもかなりの警備だが、恐らく今回は今迄以上だと思うな」

(判りました。その事については考えてみましょう)

 児玉はざっと計算してみた。物にもよるが、青山が持ち出しだ加代子の会社の資産は約六千五百億近くだという。現金というのは、余り考えられない。

 以前、滝沢は絵画を防衛省のマルエスで持ち込んだ事がある。

 TSコーポレーションに再就職させた元部下からその話しを聞いた事を思い出した。ひょっとしたら、今回も同じ手を使うかも知れない。

 児玉は頭の中でシュミレーションしてみた。

 もし、積み荷を襲撃するとしたら……

 レンジャーの訓練を受けた者なら、どんなに警備が厳重であったとしても、三人の実行班と、荷物を運ぶ班が二人居れば、完璧に作戦は立てられる。しかし、自分達はいずれも六十を越えた者ばかり。荒唐無稽なアクション映画のような訳には行かない。

 頭の中に浮かんだ襲撃という文字を消した。

 情報を簡単に入手出来ただけでも良しとしよう。野島や松山達の手に入れる情報によって、どう対処するかを決めればいい。

 頭の中で消した筈の襲撃という文字が妖しく点滅し続けていた。