加代子は目の前で繰り広げられている光景を茫然と眺めていた。

 次々と運び出されて行く机や椅子、それらは彼女がこの何十年かで築き上げて来た命の証でもあった。

 都内有数の金融業者として一代で築き上げた城が、今落城して行く。

 二十歳の頃から己の美貌と肉体を駆使し、得た金で消費者金融を始めた。

 丁度、バブル真っ盛りの頃で、加代子の手元にはあっという間に金が集まった。

 バブル崩壊後も、順調に業績を伸ばし、まさか今日のような日が訪れようとは夢にも思わぬ日々を送って来た。

 余剰資金で美容業界にも参入し、数年前、新しく建てられた六本木の超高層ビルに三百坪の新オフィスと、最上階に自分の住まいを構えた。

 法定金利の改正で、多少の損失があったとはいえ、自らの財産を失ってしまう程のものでは無かった。

 ここ迄生涯独身を貫いて来たが、女として、人としての享受されるべき物は、殆ど手にして来た。

 六十も半ば近くになれば、女としての部分は失われて当然であるのに、彼女は充分に若い頃の美貌と肉体を窺わせ続けた。

 どう見ても四十前半にしか見られない姿に、本当の年齢を知った者は驚きよりも、ある種恐怖を感じた位である。

 がらんとしたオフィスで茫然自失としている彼女の姿には、数日前迄の面影は無い。

 美しく染め上げられた栗色の髪は乱れ、目立たなかった顔の皺も、ここ数日の騒ぎで一気に現れて来た。

 独身を通して来た彼女だったが、男は居た。生涯で唯一愛した男かも知れない。

 二十歳そこそこで男に身を売る仕事をしていたから、男というものに夢を抱いた事は一度も無かった。男の醜い部分しか見て来なかった。利用する為に、愛を装う事はして来た。

 それが、五年ばかり前に知り合った男に心を奪われてしまった。倍近くも歳が離れた男だった。

 初めは、どうせ自分の財産目当てに寄って来たのだろうと思っていた。

 そういう男は腐る程見て来たし、逆に金を与える事で若い男達から偽りの愛を買っていた。

 その男は違った。

 いや、違ってるように見えた。

 今日の結果を見れば……