電話が鳴った。

 青山の心臓が、突如として鼓動を強めた。

 ベッドに横たわっていたブロンドのコールガールが、電話の音で目を覚ました。

 受話器を取る青山の手が心なしか震えている。

 ホテルのフロントがニューヨークからだと告げる。

 二秒程して、快活な声が耳に届いた。

(ハロー、タカ。スベテオーケーネ。イマ、テツヅキシテルヨ)

「サンキュー、フランク。お礼はちゃんとするよ」

(キタイシテルヨ。ネンノタメ、シナモノハ、ロンドント、アントワープカラモシイレルコトニシタ)

「構わない。そうしてくれて助かった。ニューヨークだけであの金額が動いたら、鼻が利く奴はおかしいって思うからな」

(ダイジョウブダトハオモウ。ワタシノシリアイノカイシャメイギデ、トリヒキシタカラ。イチオウネンニハネンヲトイウダケダ)

「明日にはそっちに行く」

(オーケー)

 日本とアメリカの時差を考え、その時間内に金を動かす。

日本の銀行に送金される筈の六十五億ドルは、全てダイヤモンドにすりかわった……

 そのダイヤを手にして、俺はブラジルにでも行くか……

 無意識のうちに顔が綻んでいた。

 目をこすりながら、青山の方を窺っていたコールガールは、不思議そうな顔をした。

「起きろ。お前の相手をしてる暇はもう無いんだ」

 日本語でまくし立てたものだから、女は怒られたとでも思ったのか、何故?というような顔をした。

 青山は女をほっといて着替え始めた。

「サンキュー」

 財布から百ドル札を何枚か投げてやると、女は歓喜の声を上げ、青山に抱き着こうとした。

 振りほどくようにして部屋を出た。

 目の前に止まっていたタクシーに乗り、空港へと運転手に告げた。

 何だか無愛想な運転手だったが、青山の心は浮かれていて、気にもならなかった。やたら運転の荒い運転手で、半袖から露になった両腕にはタトゥーが見え、首筋にも施されている。

 スピードを上げたタクシーは、空港と書かれた道路標識とは、反対の道へと向きを変えた。

 青山はその事に気付かず、思いをニューヨークへと馳せていた。