青山は、ベッド脇のソファで電話を待っていた。相手は、宝石商当時に知り合ったダイヤモンド専門のバイヤーである。

 フランク・キャプラン

 ユダヤ系アメリカ人である。

 元々、祖父の代からのダイヤモンド商人で、ニューヨークのダイヤモンド取引所に出入り出来るサイトメンバーにもなっている。

 ニューヨークを始めとするダイヤモンド取引所のサイトメンバーは、厳格な決まりがあり、一般の者は、どんなに金があっても会員、つまりサイトメンバーにはなれない。

 第一の絶対条件は、純血のユダヤ人でなければならない。そして、サイトメンバーはその数が決まっていて、欠員が出た時に、初めて新しい会員を入れる。その際、資産は勿論の事、他のメンバーからの推薦が無ければならない。

 その数は、僅か五十人とも百人とも言われているが、サイトメンバーの名前等は、基本的に秘密になっていて、余程の宝石商でも、知らない事が多い。

 世界のダイヤモンド相場のコントロールは、彼等サイトメンバーで行われている。

 完全な価格統制である。

 金と違い、ダイヤの取引相場が暴落しないのは、彼等が、市場に流す絶対量をコントロールしているからであり、宝石商達に卸す際も、価格はほぼ言い値で決まる。

 欧米人が、何故自国の通貨を財産として保持せず、ダイヤ等で自分の財産を保持したがるのか、最初、青山は理解出来なかった。

 フランクにその事を尋ねた時、

「それは長い歴史の中からの知恵なのさ」

「……?」

「戦争だよ。自分の国が、何時他国から攻められ、滅びてしまうか判らないだろ…財産をダイヤや宝石にして持っていれば、何時何があっても逃げられる。
宝石は、世界共通の価値で取引される」

 日本人には絶対理解出来ない感覚だなと思った。

 単なる宝飾品としてだけでなく、彼等は固有の財産として宝石を手にしたがるんだ。

 青山は、この話しを聞いた時から、今回の仕上げは絶対これだ!と考えていたのである。

 ニューヨークではそろそろ取引所が開く時間だ。

 六十五億ドル相当の取引が朝一番で行われようとは、恐らく誰も思っていないだろう。

 下準備は万全にした。

 この日出回る予定の品物には、全てフランクが手を回している筈だ……