幾分、肌寒さを感じながら、松山は夜の繁華街を彷徨った。

 何時間か前に貰った封筒には、もう僅かばかりの金しか残っていない。

 覚束ない足取りでふらつき、時々前から来る歩行者とぶつかる。その度に頭を下げ、罵声や嘲笑をやり過ごした。

 したたかに酔っ払った。

 居酒屋や、焼鳥屋などをはしごしたが、何件回ったか、段々定かで無くなって来た。

 ヤクザは死ぬ迄ヤクザでしか喰っていけねえのか……

 心の中で叫んでみるが、虚しさがこだまするばかりだ。

 当ても無く歩き回っているうちに、胃がムカついて来た。道端に山積みされたゴミの所で、思い切り吐いた。ひとしきり吐き出した後も、苦しさが残っている。段々胃液しか出なくなって来た。

 ふらつく身体を何とか真っ直ぐにし、歩き出そうとした時、道いっぱいに広がりながら歩いて来た数人の若者達とぶつかった。

「すいません……」

「すいませんじゃねえだろうが!」

「汚ねえな、このクソ酔っ払いが!」

 若者達もかなり酔っていた。

 下着が丸見えになる程ズボンを下げた位置で履き、がに股で歩く。お揃いのB系ファッションに身を固めた彼等は、酔っている上に仲間が居るという気の大きさが、言葉の端々に表れていた。

「へっ、薄汚ねえジジイだぜ。どうせホームレスかなんかじゃねえの。やっちまおぜ。どうせこんなジジイ、世間じゃもう用無しじゃん」

 一人がそう言った途端、それぞれが持っていた暴力性が一気に顔を出した。

 次の瞬間、松山の腹に蹴りが入った。もんどりうって倒れ、再び胃液を吐き出した。

「汚ねえんだよ! このジジイが!」

 立ち上がる間も無く、更に他の者から暴行を受けた。

 無意識のうちに一人の男の脚を掴み、そのままひっくり返した。

 そのまま相手の身体の上に乗り、松山は自分の額を思い切り相手の鼻っ柱に叩き込んだ。

「ギャッ!」

 鈍い音と同時に、その男は悲鳴を上げた。

 薄汚いホームレスの年寄り位にしか思っていなかった酔っ払いが、まさか反撃して来るとは思ってもみなかったから、他の者は一瞬たじろいだ。

 ゆっくりと膝立ちに身体を起こした松山の両目には、若者達をすくませるだけの険しさが宿っていた。