「ミスターアオヤマ、口座の確認が取れました。全額、当銀行へ預金させて頂いて宜しいのですね?」

「ええ」

「判りました。手続きが済み次第ご連絡を差し上げます」

 やった……

 六十五億ドル。現時点での為替レートだと、円にして約六千六百億弱……

 あんな色気ババア相手に五年も我慢したんだ。これ位は頂かないとな……

 カリブ海に浮かぶ天国……

 まさにこの島は天国だぜ。

 ニシダビューティクリニックの資産運用を一手に任されていた青山は、オーナーの西田加代子から絶大な信頼を得ていた。

 ある時期からそれは単なる雇い主と部下といった関係では無くなり、肉欲と情欲が絡んだものになっていた。

 元々新宿のボーイズバーで客と寝て生計を立てていた。

 常連客だった芸能プロダクションの社長に引き抜かれ、芸能界に身を置いていた時期もあったが、それ程売れず、何時の間にか消えてしまった。

 人に取り入るのが先天的に上手く、青山と知り合った人間は、男女関係無く、たらし込まれた。

 芸能界から身を引いてからは、様々な職業に就いた。

 ホスト、AV男優、スカウト等を経て、新宿二丁目時代の客の紹介で宝石の販売会社に入り、ビジネスの才能も人並み以上にある事が判った。たった一人で一ヶ月数億円という売上を上げた事もある。

 中性的な美少年だった面影は、三十代になっても衰えず、寧ろ少しずつ渋味が加わり、より人を惑乱させるような雰囲気を醸し出すようになっていた。

 加代子と知り合ったきっかけは、都心の高級ホテルで行われた宝石の販売会での事であった。

 男に一目惚れなどした事など無かった加代子が、生まれて初めて本気で心を奪われた。十五、六の少女みたいに、のぼせ上がってしまったのである。

 加代子が惚れたのは、その容姿だけでなく、仕事振りも大きかった。

 加代子にとって、ここ迄パーフェクトな男を見た事が無かった。

 初めて販売会で出会った時に、青山が出品していた宝石の全てを買い取ろうとした。

「失礼ですが、必要の無い物迄お買い求め頂く訳には行きません。どうか、本当に良い物、西田様に相応しい物だけをお求めになって下さい」

 この一言で、加代子は益々のめり込んだ。