典子がお客様ですと言って来た時、それが四十数年振りの再会になるとは思いも寄らなかった。

 応接間で向かい合い、

「お久し振りね」

 と言われた時は直ぐに気が付かなかったが、

「千代菊よ」

 と、笑顔で言われ、一気に記憶が蘇っていた。

「これは、これは……いや少しも気付かなんだ」

「あたしの顔を忘れるなんて、随分ともうろくされたんじゃなくて?」

「そう手厳しい事を言わんでくれ」

 二人の間に四十数年という時を越えた笑いが漂った。

「ところで、あの千代菊が何故今頃儂に?」

「あたし、本名は西田加代子って言うのよ……」

「西田……ひょっとしてあのニシダビューティ、何とかのか?」

「そう、そのニシダビューティ何とかの」

 そう言って見つめる加代子に、辻は驚きとは違う怪訝な表情を見せた。

「あたし、て言うより、あたし達って言った方が判るかしら、親栄会の澤村君に匿って貰ってるの」

「……」

「滝沢秋明……この先の話しはぐだぐだ言わなくても判るわよね」

 長い沈黙だった。

 腕を組んだまま辻は目を閉じ、瞑想をしているかのようにじっとしている。

 痺れを切らした加代子は、

「年寄りになると都合の悪い話しには寝てごまかそうとするのかい」

 と悪態をついた。

 辻の寡黙な表情に苦笑いが浮かんだ。

「物おじしないその物言いで昔を思い出したよ」

「昔を思い出すよりも、今の話しを頭にきちんと入れとくれよ」

「まあまあ、そう儂を責めんでくれ。滝沢と今問題を起こしてる連中の中に、まさか千代菊が入っていたとはと思ってね、いろんな事を考え込んでしまったのさ」

「ふぅん、物は言いようだね。ならばどう考えてくれるの?
 こうして素性を明かして来てんだし、ましてや滝沢の名前迄口にしたんだ。
要件は察しがつくだろうから、まどろっこしい事無しでこの先返事をしておくれ」

「お前さんの性急さは変わらんな」

「変わるも何も、何人もの命が掛かってんだ。悠長な事言ってらんないんだよ」

「判った。儂にどうしろと言うんだ?」

「決まってんだろ、滝沢を何とかしておくれ!」

 再び辻は目を閉じた。