「看板の灯りが消えてますが、もう終わりなんでしょうか」
「いや、大概朝迄やってる筈なんですが……」
梶は、何年振りかでその扉を開けた。
「梶……」
「よお……」
薄暗い店内を見ると、先客が一人だけいた。
カウンターに俯せになっている。
「今夜は二人なんだ」
神谷は梶の後ろに隠れるように立っている男を見て、
「あれ?ひょっとして、野島さんですか?」
「ご無沙汰です……」
カウンターを挟んで三人共、暫く感慨深げな思いで言葉を飲み込んでいた。
「神谷、相変わらず暇そうな店だな」
「三十年、それが売りで営業していた店だ」
神谷の冗談に、梶と野島は笑った。
「よく潰れずやってたな」
「いや、一日遅かったらアウトだったよ。ま、とにかくゆっくりして行ってくれ」
「一日遅かったらって、お前……」
神谷はそれには答えず、注文も受けていないのに、グラスを用意し、琥珀色の液体で満たした。
「今夜は、金は要らないから……」
「金は要らないて、お前それ……」
「気にするな。酒は飾る物じゃない。飲む為の物だ。野島さんもどうぞ」
そう言って、神谷は自分のグラスにも満たした。
「再会を祝して……」
「乾杯」
「乾杯……」
「それにしても不思議なものだ。こんな夜にこうして……」
「神谷、さっきから気になる言い方ばかりしてるが、こんな夜ってお前、まさか……」
「お察しの通り。今夜が最後なんだ」
「閉めるんですか?」
「借金でいよいよアウトになってしまいましてね。まあ、よく持った方じゃないかな」
「そうか……」
「だから、この酒をお前に出した。じゃなきゃ、俺が一人で飲んでたよ」
「相変わらず減らず口だけは達者な奴だ」
「ところで、二人は以前から知り合いだったのか?店で一緒になった事あったかな?」
「東和大の同窓だ。それもかつての旧敵」
「……?」
「私はそれを知らずにここへ飲みに来てたんです。今夜は偶然、別な店で梶さんとお会いしまして、話しを伺ったら……」
「人の縁程、不思議なものは無い……か」
「いや、大概朝迄やってる筈なんですが……」
梶は、何年振りかでその扉を開けた。
「梶……」
「よお……」
薄暗い店内を見ると、先客が一人だけいた。
カウンターに俯せになっている。
「今夜は二人なんだ」
神谷は梶の後ろに隠れるように立っている男を見て、
「あれ?ひょっとして、野島さんですか?」
「ご無沙汰です……」
カウンターを挟んで三人共、暫く感慨深げな思いで言葉を飲み込んでいた。
「神谷、相変わらず暇そうな店だな」
「三十年、それが売りで営業していた店だ」
神谷の冗談に、梶と野島は笑った。
「よく潰れずやってたな」
「いや、一日遅かったらアウトだったよ。ま、とにかくゆっくりして行ってくれ」
「一日遅かったらって、お前……」
神谷はそれには答えず、注文も受けていないのに、グラスを用意し、琥珀色の液体で満たした。
「今夜は、金は要らないから……」
「金は要らないて、お前それ……」
「気にするな。酒は飾る物じゃない。飲む為の物だ。野島さんもどうぞ」
そう言って、神谷は自分のグラスにも満たした。
「再会を祝して……」
「乾杯」
「乾杯……」
「それにしても不思議なものだ。こんな夜にこうして……」
「神谷、さっきから気になる言い方ばかりしてるが、こんな夜ってお前、まさか……」
「お察しの通り。今夜が最後なんだ」
「閉めるんですか?」
「借金でいよいよアウトになってしまいましてね。まあ、よく持った方じゃないかな」
「そうか……」
「だから、この酒をお前に出した。じゃなきゃ、俺が一人で飲んでたよ」
「相変わらず減らず口だけは達者な奴だ」
「ところで、二人は以前から知り合いだったのか?店で一緒になった事あったかな?」
「東和大の同窓だ。それもかつての旧敵」
「……?」
「私はそれを知らずにここへ飲みに来てたんです。今夜は偶然、別な店で梶さんとお会いしまして、話しを伺ったら……」
「人の縁程、不思議なものは無い……か」



