「児玉さん、そろそろ……」

 浅井が児玉の横に戻って来て囁いた。

 腕時計を見ると夕方の5時だ。

「では、滝沢に連絡を」

 頷いた浅井は部屋の隅に行き、ケータイを掛け始めた。

「……浅井です。例の人間達ですが、全員確保しました。……ええ、……はい、……そうです。女社長だけ怪我をしてますが、他の者は皆生け捕りにしました。……では、どちらへ………ええ判りました。一時間もすれば伺えます。では……」

 電話を切った浅井は児玉に目配せをした。

「皆さん、ゲームスタートです」

 児玉の言葉に皆が一斉に立ち上がった。

 緊張感が一気に漂う。

 手製の担架に奪った武器弾薬を積み、その上に毛布を掛けた。自動拳銃はそれぞれがズボンのベルトに挟んだ。

 神谷が担架に被せた毛布を一生懸命、人型に似せようとしている。それを手伝う梶と松山。野島は着込んだ防弾ジャケットがきついのか、しきりにベルトの調整をしている。

 命を落とすかも知れないというのに、いずれの顔にもそういった色は出ていない。

「児玉さん、あの人達は死ぬ事が怖くないんでしょうか」

 浅井の言葉に、

「死ぬかも知れない恐怖をまるで感じない人間は居ません。居るとしたらそれは寧ろ精神に何処か異常をきたした者です。精一杯、戦ってるのだと思います」

「児玉さんも?」

「勿論、見て下さい、ほら」

 と児玉は言って自分の手を浅井に見せた。深く皺が刻まれたその手は、よく見ると微かに震えていた。

 見上げた浅井の両目に映ったのは、目を細めて微笑む漢の顔があった。

 唇を真一文字に引き結び、浅井は若い者二人を促してトラックに乗り込んだ。

 幌付きの荷台に武器を積み終えると、児玉達も荷台に乗り込んだ。

 先に乗り込んだ浅井が手を貸す。

 それぞれの手をしっかり握り締める毎に、浅井の胸に言いようの無い想いが湧いた。

 敷地の扉が開けられ、トラックがゆっくりと走り出した。

 湾岸沿いの工業用道路を走り出すと、全員が無口になった。