浅井が去った後、児玉はじっと台所に立ったまま考え込んでいた。

 自分に何か出来る事は無いか……

 本来、自分にはまるで関係の無い事件に巻き込まれただけであったのにも関わらず、松山との奇縁で今此処に居る。

 松山が側に来た。何か言いたそうなのが判る。

「児玉さん……」

 我慢し切れずに松山は口を開いた。

「はい……」

「自分達の居場所が知られてしまったのですか?」

「それは判りませんが、ただ……」

 言い澱んだ児玉は話そうかどうか迷った。結局、遅かれ早かれ知れてしまう事と思い、浅井から聞いた事のあらましを話した。

「澤村が……」

「浅井さんが手を打つとおっしゃってましたが、果たしてどう手を打つつもりなんだか……」

「我々のせいですな」

「それは別な問題だ。とにかく、何時でも此処を出れるように支度をして置かなければならん」

「お隣りにも伝えて置きましょうか?」

「そうですね。私から伝えましょう」

 そう言って児玉は野島や神谷達の部屋へ行った。

 澤村……

 俺のせいで……

 そんな事を考えていると、浅井が戻って来た。

「児玉さんは?」

「両隣へ」

「丁度良かった。皆さんをこの部屋に集めなくては」

 数分後、部屋に全員が集まった。

 浅井は先ず事の顛末を話し、ここからが重大な要件なのだがと前置きした。

「ご存知のように、本来は滝沢からの要請で、我々親栄会は皆さんを捜す立場にあります。ただ、本気で行動しているのは、渋谷の三輪の所だけですが。それでも、澤村が向こう側に捕らえられた以上、その事で西尾組や本部に圧力が掛かる事は間違いありません」

「圧力だけじゃすまねえだろう」

 野島が険しい表情で口を開いた。

 浅井はそれに答えず、

「はっきりと向こうが澤村の名前を出して来てどうこう言ってる訳ではありませんが、寧ろその方が自分としては恐ろしくもあります」

「まだ生きてる可能性があるな」

「そう、捕まってもいないかも知れない」

 児玉がそう言ったが、確かにそうかも知れないと他の者も頷いた。

「親栄会の澤村が滝沢の命を狙ったと判れば、絶対黙ってる訳無いからな」