ナナセが後ろを振り返ると、アズキが消えていた。
辺りを見回すと、人混みの向こうの小さな店にアズキらしき明るい茶髪がいて安心する。

しばらく待つと、小さな包みを握って戻ってきた。

何をしていたのと二人が聞く前に、アズキが口を開いた。

「ハルカに聞きたいことがあるの。

ここにいるのは、ハルカにとって長い方?」

唐突すぎて目を見張ったが、笑わなかったのはアズキの目が真剣だったから。

「……うん。」

「いつか、出ていくの?」

アズキの問いには、ハルカは申し訳なさそうに目を伏せた。

「うん。」

声に反した意志の強い声音に、自分だけこの出会いを大事に思っているみたいで悔しくなって、突き放すみたいに包みを押し付けた。

「──あげる。」

アズキに押し付けられた包み紙を開くと、小さな首飾りが滑り出てきた。
ナナセにきっと似合うよね、とアズキがいつも眺めていたそれは、青い石が鎖で繋がれている小さな飾りだった。
安物だけれど、きっと値は張るだろう。

「ハルカが昔そんな世界の人で、私たちとは違っていても、私はハルカが大好きだよ。

いつかどこかへ行っても、私はハルカの味方だよ。
だから私達のこと、忘れないで。」

その声は右耳から入って左耳に抜けていくみたいで、ハルカはただ掌に乗る小さな飾り物を見ていた。
トーヤが覗き込んで、小さな感嘆の声を漏らした。

どうして、ばかりが頭のなかで回り、顔を上げるとアズキに言葉を先読みされた。

「どうしてって?

短い間の付き合いだけど、私にとっては大事なんだもん。
いつかどこかへ行っても、私はハルカの味方で、大事に思っているって、言うなら今だと思ったの。」

悔しくて、捲し立てるみたいに言葉を投げた。
言葉が返って来なくて、悔しくて顔をあげたアズキは、思いがけなく泣き笑いの寸前の彼女に絶句する。
何が彼女の心に届いたのかは、分からない。

ただ、悪いことはアズキ自身言ってはいないと思っている。

薄い涙の膜が張った瞳で、ハルカが笑った。

ありがとう、忘れないと、笑った。