年越しがあと一日と迫ったルイスの屋敷。

使用人たちの慌ただしい足音も増し始め、料理の調達にパーティーの飾り付けにと走り回っていた。

その中でスズランは二人の女の子を連れて人通りの少ない屋敷の隅を歩く。

人の少ない廊下進んだ先にある鍵付きの大きな部屋。
アズキとファイがスズランに初めて案内した、北館の一部屋に入り扉を閉めて、一番始めに落とされたのはアズキの掠れた声。

「…これは何…?」

アズキはひきつった笑みでスズランを振り返った。

「え?ドレスだけれど。」

スズランは表情を崩さずさらりと答える。

「えええ!?」

スズランの答えに後ずさりして口をパクパク動かして、アズキは部屋に反響する音量で叫んだ。

「何それ私この中から明日のパーティーのドレス選んでもらうの?
そんなのいいのにもったいないよ!!」

混乱しているのか、栗色の髪の少女に早口で捲し立てる。
肩を揺さぶられた獅子の少女に答える暇を与えない。

落ち着いたアズキにスズランが笑う。

「そんなに驚かなくても…。

ここにあるのは何年かかけて私が集めただけよ。
でも一人では着られないから、着てくれる人がいなくて困っているの。

ね?
だから着て頂戴?」

首をかしげて、そんなに嬉しそうに微笑まれては、アズキも反論しようがなかった。

「そんなに言ってくれるなら…。

一度くらい着てみたかったし…。」

拗ねたようにアズキが呟いた。
その反応にまた、獅子の少女がゆっくりと微笑んだ。

ナナセへと戻った彼女が、綺麗に並んでいる衣装たちの間をすり抜けて手近にあったドレスに触れる。
何の動揺も見せずに、衣装の並ぶ棚を物色する銀色の少女。

そんなナナセに、王女の名残を彼女に感じて、スズランは感心する。

─やっぱり、こういうところはちゃんと王女様か。

だけどその後布地を触りながら呟いた台詞が台無しにした。

「へぇ…こんなにいっぱい…。
あ、この布地肌触りいい。」

この台詞にスズランはずっこけそうになった。
それも真顔で言うから、ナナセの先がスズランはとても不安になる。
こんな場所、乙女にとってみれば憧れだと思うのに。


─この子の口から可愛いとか、美しいとかはそう出ないのを忘れていたわ。

勿体無い、とスズランは首を振る。


─姿を見れば、異質さは置いておけば神秘的で綺麗なのに…。


中身が伴っていない。

─まだまだ、幼いままか。

はぁ、とため息が出て、スズランは脱力感に襲われる。
布地を確かめる衣装に無頓着な銀髪の王女と、平民の出身の茶髪の少女。

─可愛くさせてやるんだから!

気持ちを切り替えて、スズランはいつもの強気の笑顔で言った。

「さぁ、やるわよ!」

スズランの金の混じった瞳に炎を見たような気がして、ナナセは乾いた笑いを返した。