ルイスでも有名なその屋敷は、いつもと変わらぬ昼を過ごしていた。

原則訓練室以外での暴力は主人が禁止している。

その為か闇の人間が集まる場所であるが、比較的穏やかな空気が流れている。


昼間多くの人間が出歩く廊下を、颯爽と屋敷の主人が歩く。


赤色の裾の長い羽織を着て、下には動きやすそうな丈の短いワンピースを着ている。

その姿はどこか色っぽい。


そしてその頭には金色の獅子の耳。


見慣れない男たちはその異質さに、見慣れた男たちはその美貌に釘付けになる。



その視線には臆せず、前を見据えたまま彼女は足を止めない。


今はここにいない銀の少女と黒の少年と共にいたときとは少し違って、ピンとした空気を纏っている。


そんな彼女を追いかける足音が聞こえてくる。



「ちょっと、スズラン嬢!」


栗色の髪をふわりとなびかせて彼女は振り返る。

追いかけてきたのは金髪に蒼の瞳をした端正な顔立ちの長身の若者。

20代と思しきその男は、柔らかそうな白い生地のコートを着ている。

健康そうな体つきをしているのに、白い肌や淡い金髪、そして貴族のような優雅な所作が、彼を儚く演出する。

この二人の組み合わせを見て、まわりの男たちはそそくさと逃げ出す。

そんな回りの反応も気にせずに、スズランは口を開く。


「何、リクさん。

何度来られてもこの商談は受けないと言ったわ。

この話はおしまいよ。」


有無を言わせぬ笑顔で獅子の少女はリクと呼んだ長身の男を見上げ、彼女は自分より年上の男を黙らせる。

スズランとリク以外の人間が逃げ出した廊下。

赤い絨毯を踏みしめて、二人は暫し睨み合う。


リクは口をへの時に曲げて腕を組む。

そして露骨に嫌な顔をしてため息をつく。

線の細い印象は消えないものの、儚さはどこへやら。


今に舌打ちをしてもおかしくないような彼の表情を見て、スズランは鼻で笑う。


「あんたのその二重人格、笑っちゃうわよね。」


人を見下したように笑う獅子の彼女を見て、彼は負けじと言い返す。

「お前のその態度も直せよ。

いつかばれるぞ、猫かぶりなお前のその性格。」