──この手で刺した、はずだった。


刺さった布団の感触も、布団を突き破って服を破いた感触も、確かにあった。

なのに、銀髪を月光に輝かせるこの王女の顔は、少しも苦痛に歪まない。


それを不審に思ったサシガネが鈍く光る刃物を引き抜けば、ナイフと共に離れていく腕を追うように白銀の王女の手が伸びてくる。


羽毛が舞う空中で、サシガネの逞しい太い腕を、細い手が強く掴む。

突然のことにその手を振り払うことのできないで立ち尽くすサシガネと、眠っていると思っていた少女の行動に呆然とするトキワ。


サシガネは強張った体で、目を閉じたままの彼女を見る。

トキワは隣で驚いた顔を隠さずに成り行きを見つめている。


狩人二人が顔を見合わせれば、かさり、と微かな物音がした。


音源は、ベッドの上の銀色の少女の衣擦れの音。

暗闇に白いシーツがやけに映え、トキワは背中に冷水を浴びたような気分に苛まれる。


サシガネの腕を左手が掴んだまま、彼女はゆっくりと、閉ざされた瞳を開く。



直感が危機を感じてサシガネはナナセの手を振りほどこうとする。

しかし、ナナセがサシガネの腕を強く掴んでいるためにそれが敵わない。



開かれた瞳にあるべきは澄んだ空のような青色。

しかしあるはずの色は、そこにはない。

二人が見たのは、月明かりのなかで鋭く光る、金の混ざった栗色の瞳。



茶色い瞳が強気に笑んで、白銀の髪をした少女の薄い唇を闇の中で妖艶に言葉を紡いだのが、狩人たちにも分かった。



「…残念でした。」


ナナセよりも色っぽく、彼女よりも些か低い声。