お姉ちゃんの二本の細い両腕が、優しくあたしを抱きしめる。


「ありがとう、七海。諦める以外の道を与えてくれて、ありがとう」


「お姉ちゃん……」


「黙ってて、本当にごめんなさい」


胸がギュッと締めつけられて、そして燃えるように熱くなった。


自分の十年分の想いとか、お姉ちゃんの勇気とか、いろんなものが心の中で混じり合って、それをどう言葉にすればいいのかわかんない。


ただ言えるのは……あの恋はあたしにとって『運命の恋』だったけど、お姉ちゃんにとっても『奇跡の恋』だったんだ。


ぜんぜん軽くも薄っぺらでもないし、比べられるものじゃなかったんだね。


なら、あたしは……。


「よかったね、お姉ちゃん! あたし怒ってなんかないよ!」


あたしはお姉ちゃんの肩をグッと掴んで揺さぶりながら、とびきりの笑顔で叫んだ


「怒るどころか、すっごくうれしい! お姉ちゃんの恋が叶ってさ!」


しかたないんだ。これは、しかたのないことなんだ。


あたしはたしかに柿崎さんのことをずっと思い続けていたけれど、もうその意味は失われてしまった。


だってもう、柿崎さんはお姉ちゃんを選んでしまっているんだから。


だからどっちにしろ、なんにしろ、どうしたって、なにをしたって、あたしは黙って諦めるしかないんだ。