センセイが、センセイじゃなくなった瞬間だ。
私は息をするのも忘れて目の前の人を見た。
「観察力、とでも言うのかな。そういうのに長けてる女性(ひと)だった。だから、教師に向いていたのかもな」
センセイはピアノに視線を向けて、静かに語る。
その音色(こえ)に、私は全ての神経を集中させる。
「俺には無縁な才能だ」
くくっと皮肉な笑い声を上げるセンセイが、なんだか切なそうで、私は言う。
「そうかな。センセイもあると思う……“観察力”」
別に気を遣って言った訳じゃない。
本当にそう思うし。
広い視野があるから、今まで浮いた噂も聞かずに教師を続けてきたんだと勝手に思って。
じゃなきゃ、とっくに押しの強い女子に何かしら攻められてるよ、きっと。
「吉井はどちらかというと、洞察力がすごい」
「それ…どう違うの」
「上辺の情報だけじゃなく、心理に近いところまで直感でみる力とでも言うのかな」
「すごい。国語の先生にもなれたんじゃないですか?」
「だから、お前も言っただろ」
「え?」
真っ直ぐに見つめられる瞳。
だけど、その表情は担任の顔じゃない。
「“ハッキリとさせたい”性格だから、複数の答えがある国語は苦手だ」
「あー……」
「それは昔も今も、変わってないんだな、俺」
前髪をくしゃっと掻き上げて、眉を歪にして笑う。
……センセイ。
もっと、もっともっと。
その心(こえ)を聞かせて下さい――。



