雨、ときどきセンセイ。


「やっぱり、今でも……好き?」


鍵盤から手を降ろして、私も椅子を立った。
少し顔の距離が近づいた私を見て、センセイは言う。


「まさか。何年前の話だと思ってんだ」


その言葉を信じたい。


「だけど、もう昔のことだって思っても、どうしてそこから動かないの……?」


センセイの時間(とき)は止まったまんまな気がして。
思ったように口にしたら、センセイが思いの外驚いた顔をして私と向き合った。


「……生意気」


ふっと笑って目を逸らす。
だけど、私はその目を、心を追い掛けるのに必死。


「センセイって、本当は不器用?」
「……」
「不器用で、怖がり?」
「なんで」
「だけど、ハッキリさせたいタイプ?」


すらすらと口から出る言葉の最後に、センセイの様子が何か違うのを感じた。


「だから、数学のセンセイなのかな」


数式は、ハッキリと、いつでも答えが出るから。


それは独り言のように言ったものだったけど、センセイは視線を落として息をひとつ吐いた。

そしてピアノを弾く前の私のように目を数秒閉じた後、ゆっくりと目を開けて話しだす。


「お前は俺に似てるようで、あの人と同じようなことまで言う」