雨、ときどきセンセイ。


久々に何かを弾いた。

やっぱりブランクというものはあって、途中怪しい所とか、最後まで覚えてなかった私は1,2分持っただろうか。

そのくらいの時に手を止めてしまった。


最後まで弾けたらもっと気持ち良かったのに。

でも、単純に自分の指から奏でられた音が、他の人が弾く音とは違って聞こえて嬉しくなる。


そんな余韻に僅かながら浸っていると、左側からの視線に気が付き、ハッとする。


「へぇ。さすが」


横を見ると、夕陽に照らされたセンセイがすごく穏やかに笑顔を浮かべていた。

その顔に見とれてた。

柔らかな夕陽と、その夕陽に負けないくらいの微笑み。


そんな私の穴の開くような視線に気が付いたのか、センセイはまた表情を戻してふいっと顔を逸らして椅子から立った。

私はセンセイを見上げた。

相変わらず外を向くセンセイを見て思う。


今の私のピアノを聴いて、何を思い出していたの?
このピアノの音色と一緒に何を聞いていたの?

過去の人の記憶は消せない。
その記憶の上書きも出来ない。


だから、センセイ、お願い。


せめて私じゃなくても今はいい。
私の奏でた音色で思うのは、現在(いま)にして――。