雨、ときどきセンセイ。



『事情知っちゃったし、私のことは気にしないでー。あ、でもなんかあったら教えてよね!』


放課後、みっちゃんは耳元で私にそう告げて、いつもの冷やかし顏で帰って行った。

そんなみっちゃんの計らいが、恥ずかしくも助かりつつ。

私は久しぶりにあの教室へと足を向けた。


静かな廊下に聞こえるのは、やっぱり自分の足音と、グラウンドから聞こえる生徒の声。


この時間のこの空間は、空気が違う。


ひたひたと目的の部屋の前に着くと、小窓からその教室内を覗き見る。
そして、その姿を確認すると、大きく深呼吸をしてから重いドアに手を掛けた。


ギッと渋い音が鳴る。

その音に気付いたセンセイは私を見る。


だけど特別何か声を掛けられるわけでもなく。
いつもの指定席……ピアノの椅子に腰を掛けていたセンセイは、私と目を数秒合わせた後また窓側を向いてしまった。


「……怒ってますか?」


そんなセンセイの態度に、ちょっとだけドキリとして聞いてみた。


「――別に」


夕陽に向かったまま、センセイは言葉少なにそう答えた。

その声色は、確かに怒っている様子ではない。
だから、私はほっと胸を撫で下ろして、センセイが居るピアノへとまた近づいた。


「本当は、逃げられちゃうかと……思ったんですけど」


真正面から言ったから。

センセイが居る、音楽室(ここ)に来てもいいか、と。
センセイのことが、好きだから……と。


だから、容易く逃げられてしまうかと、心のどこかで思ってた。