センセイの好きな人。
大切な人。心を許せる人。
一体、どんな人……?
「今、言った。“ずっと前”の話だ」
本当に?
だって、それでも未だにこの小さなものを、大切にしてるんでしょう?
それは、センセイの気持ちを表してるんじゃないの?
今現在の、センセイの心を。
「その人とは、もう会ったりしてないの?」
「会わないな」
「でも、ずっと忘れられない……?」
「――忘れることは、これからもないだろうな」
コツッと足音を鳴らして、センセイが長机に沿って私に近付きながら言った。
そして私の開いた手のひらから、ゆっくりとクリップを拾い上げる。
それを窓側にかざすようにして、少し目を細めたセンセイがそれを見つめながら言う。
「同じ“教師”をしてる限り、思い出すことの方が多いかもしれないな」
――その表情(カオ)だ。
私はセンセイの横顔を見て思った。
あの日と全く同じ。
儚げな……。
「……そんなずっと前から、今でも好きなのに、会いに行かないの?」
「誰が“今でも”っつったんだよ」
センセイはそう言って鼻で笑うと、かざしていた手をおろした。
「だって、センセイの時間、止まったまんまじゃないの……?」
だからそんな表情してるんじゃないの?
その視線の先は、今ある夕陽じゃなくて、もっとずっと遠くなんでしょ?
「その人も先生なの……? だったら会いやすいんじゃ」
「もうその人はとっくに教師じゃない。母親になったはずだから」
「え?」
じゃあ、その人はもう結婚して……?
そんな報われない状況だったなんて想像してなかった。
絶対に、叶わない想い。
そんな理由があったなんて。



