いざ、了承を得られると、どういう言葉にして聞こうかと戸惑ってしまう。
だって、一筋縄じゃいかないって思ってたし。
それがこんなに拍子抜けするほどトントン拍子だと……。
もたもたしている私を、鋭い目つきに変えてセンセイが急かす。
「気が変わる前に早くしろよ」
そのひとことに、私は頭が真っ白になるほど慌ててしまって結局昨日からあれだけ考えてた言葉のかけらも使わずに言ってしまった。
「こ、これをっ、前の雨の日にあの駐車場で拾ってたんだよね?」
ああ……私のバカ。
たったひとつの貴重な質問を、こんな単純な捻りの無い質問にしちゃうなんて。
これじゃあ、『そう』と答えられたらそれで終わりだ。
センセイのことだから猶予もくれそうにないし……あぁ、もう!大失敗……。
私は半分泣きそうな気持ちで視線を自分の握り締めた片手に落とした。
「それは、もうずっと前から持ってるものだ」
反射的に顔を上げた。
そしたらセンセイが、いつの間にか俯いていた顔を上げて私を見ていた。
ううん。
正確に言うなら、センセイのその“もの”を握り締めている、私の手を――。
「なんとなく察しはついてるんだろ? 俺がそんなデザインのものを自分で用意するわけない。それはある人から貰ったもんだ」
そっと握っていた手の力を緩める。
私の右手の中に光るト音記号の銀色のクリップ。
こんなにキズがついて、緩んできてるであろうものでも未だにセンセイが手離さない、大事なもの。
「……センセイの、好きな、人?」
どう考えても、それが自然な答えだ。
それでもセンセイの口から聞きたくて、私はその当たり前の質問を漏らしてた。



