素直にセンセイの落し物を返さない私は悪態をつかれる。
そんなの覚悟してたし、なんとも思わないんだから。
だって、絶好のチャンス。
あの日の、あのセンセイに繋がることを知ることが出来るかもしれない。
自分の回復力に我ながら驚いてしまう。
風邪だけじゃない。
心の方の回復力。
こんな茜色の夕陽が射す時は、決まって勇気が湧く気がする。
「どうせ『可愛い』なんて思ってもらえないのはわかってるから」
「……はーっ」
今までかつてない程の盛大な溜め息。
それはがっくりと頭を垂れるほどに。
あ、つむじ。
さっきより太陽の光がセンセイの黒髪にキラキラと反射してる。
そんな観察をして黙っていると、センセイは未だにその態勢のままボソッと漏らす。
「……しつこい」
「自分でも驚いてます」
「猪突猛進」
「褒め言葉と受け取っておきます」
「……こんなだったのか、俺」
ーーえ?『俺』……?
一体どういう意味かわからなくて、キョトンとしたままセンセイを見る。
センセイはやっぱり俯いたまま。
それから私たちはお互いに沈黙し、グラウンドから響く、部活中の音や声が遠く聞こえてきた。
「あ、あの……?」
本当の本当にセンセイがそのまま動かないから、ちょっと心配になって声を掛けた。
「その目」
「へっ?」
不意に顔を少し上げて、上目遣いをするように私を見るから変な声を出してしまった。
「その“逃がさない”っつー目が、狂う」
片手で額を抑えながらセンセイは続ける。
「なに、聞きたいことってのは」
まるで降参とでも言うような口調のセンセイもまた、初めてだった。



