「生徒指導室って初めて入った」
狭い空間に、長机とパイプ椅子が置いてある。
私はまるで、どこかの家に来たかのように、壁を見回したり棚に触ったりしていた。
センセイはそんな私の呑気な様子を唯一の窓際に立って、寄りかかりながら怠そうに見て言った。
「そりゃ良かったな。卒業目前に入室出来て」
センセイを見てみると、音楽室にも似たような夕陽が窓から入ってきていてその雰囲気がすごく似合ってた。
私は部屋の観察をやめて、長机を挟んでセンセイと向き合った。
そしてぺこりと頭を下げる。
「昨日はありがとうございました」
「いーえ」
「たくさんの課題を、わざわざ……」
「期限は特別明日まででいいけど?」
嫌味を嫌味で返されるこの感じ。
個人的には結構好き。
生徒指導室はすごく静かで。
多分、放課後ということもあるかもしれないけど、元々この部屋の位置が静かな場所にあるんだなぁなんて、余計なことを考えたりした。
本題になかなか移らない私に、センセイは少し言いづらそうに話を振ってきた。
「さっきの言ってたやつって」
私はそこまで捻くれてない。
だから、すぐにカバンから手帳を出して、あのクリップを指先で掴んで見せた。
「センセイと、ずいぶんギャップあるデザインでびっくりした」
「それは驚かせて悪かったな」
センセイが、多分わざとぶっきらぼうに言って、手のひらを上に向けて伸ばして来る。
私はその手のひらにクリップを持った手をゆっくりと近付けたあと、それをぎゅっと自分の手の中に閉じ込めた。
「ひとつ……聞いてもいい?」
センセイはしばらくその手をそのままに、じっと私を見つめる。
そして長い溜め息を吐いて、諦めた顔で手を引っ込めると、腕を組んでまた窓に寄りかかって答えた。
「ったく。可愛くねぇな」



