放課後、私は一人職員室へ向かった。
クラス担任なんだから、教室で話し掛けようと思えば出来るし、小さい落し物だからさらりと手渡しも出来なくはない。
だけと私は職員室を選んだ。
今日は音楽室に来る日じゃないし、何より誤解が解けたから、あの場所に足を踏み入れることに抵抗はなかった。
香川先生の姿や声が聞こえても、もう平気。
そう思ってドアをノックする。
そっと開いたドアからセンセイの机の方を見てみると、相変わらず真剣な顔をしてパソコンに向かっていた。
「失礼します。あの……真山センセイ」
静かに歩きながらセンセイを呼ぶ。
すると、センセイはすぐに私を見た。
「吉井。なに?」
ああ。やっぱり職員室(ここ)じゃ、完全に“先生”で、付け入る隙がない。
周りに先生も生徒も居るのだから当然なんだけど。
「え……と……」
なんて切り出そう。
単純に、『落し物ですよ』と伝えて渡すのならさっきも考えてたように、教室でもここでも、どこでも出来る。
けど、こんなチャンスアイテムを手にした私はそんな簡単に返すことなんてさらさら思ってない。
「……? なんだ?」
何も気付いていないセンセイは、顔をしかめて首を傾げる。
私は目だけを動かして、ちらりと辺りを確認する。
周りにちょうど誰もいないことがわかると、本当に小声で、センセイだけに聞こえるように口を動かした。
「少し、時間貰えませんか」
それでもセンセイは眉根に皺を寄せたまま。
だから私は付け足した。
「……センセイ、もしかしたら何かなくしてないですか?」
そこまで話すと、やっぱりセンセイは“あれ”を探していたようで、ピンときた顔に変わった。



