ちらりと封筒の中を覗くと、プリント類が数枚見えた。
「まさか、本当に課題だったりして」
私は苦笑しながら言った。
それでもセンセイは笑うことはなく、ただずっと、同じ顔でそこにいた。
「…ピアノ、弾くの?」
そして、投げ掛けられた突然の質問に私は目を丸くした。
「え…?」
なんで、知ってるの?
確かにピアノ、習ってたけど…だけどそれは中2までの話。
高校でピアノを披露したことなんて記憶にない。
「いや、さっきリビング通った時に見えたから」
「あ、ああ!」
なるほど!
リビングの横の和室はいつも開放していて、あれだけ存在感あるピアノなら気付いてもおかしくないか。
頭で納得した私は、センセイの質問に控えめに答える。
「もうずっと、弾いてませんけど…昔少しだけ」
「へぇ」
『へぇ』って…。
それだけ?
なんか、もっと話題が広がるとこじゃないの?自分から振ってきておいて。
ぽかんとセンセイを見ていたら、急にセンセイが立ち上がった。
そして私の机に近付いて、すっと手を伸ばす。
そこにあった黒い傘を、センセイは手に取って、私を見て言った。
「役に立たなかったな。コレ。持ってくから」
そこでセンセイが今日初めて小さく笑った。
その笑い方はさみし気にも感じるもので、私はつい、腰を浮かせて声を大きくしてしまった。
「違っ…! 私が勝手に、使わなかっただけで…」
昨日雨の中でさすことをしなかったけど、そうやって部屋に持ってきて眠る瞬間まで眺めてた。
目を奪われたあの日にさしていた、黒い傘。
その傘が、特別なものな気がして。
それを預けて貰えたことが、昨日せめてもの救いだったから。



