無言のまま歩き進めると、前と同じように私たちは校門前で並んでバスを待った。

いつもはうるさい水越が黙っているなんて、居づらくて仕方ない。

私が痺れを切らして水越に話し掛けようとしたら同時に水越が口を開いた。


「あのさ」
「……」
「吉井、今度どっか付き合ってくんない?」
「…は?」
「ベンキョーの息抜きにさ」


私はセンセイとのことを指摘されるとしか思ってなかったから、本当に驚いた声しか出せなかった。
それが逆に、“何かある”って言ってるような反応なのに。

私のその態度も、目も。
もう絶対、誤魔化しようのないものだったと思う。

だけど私は水越から目を逸らさなかった。

言い逃れはもう出来ないから。


「本当に、言いたいことってそれだけ…?」


面倒なことは避けたい。
けど、本当は逃げるくらいなら、正面からぶつかって解決したい。

そんな性格の私は、自ら窮地に立ってしまうような発言をした。
逆にその発言に、水越の方が動揺していた。


「…吉井は受験、一足先に終わってるだろ?」
「は?」
「他の奴らは、オレと同じ、受験生だから」


私は自分が投げつけた質問の答えじゃないその水越の言葉に、眉間にシワを寄せて聞き返す。


「“息抜き”なんて、付き合って貰える状況なの、吉井くらいだし」


そう言って、水越は澄んだ瞳を私に向けた。


「…でも…」
「ああ。来ちゃったな、バス」


返答に困ったところにバスが来た。


「…暇な日あったらメールして」


校門に寄りかかっていた背中を戻して水越が言った。

そしてそのまま私は何も言わず、ただ水越を見つめ返してバスに乗り込んだ。