翌日の金曜日。

数学の授業はあったけど、提出物も返却物も特になかった。


『俺を見てるようだから』


昨日の最後のあの言葉。

あれを聞いて、崩すなら今だって思った私はセンセイの傍に行こうとしたのだけど。


『“距離”ね。難しいよ、実際』


そう笑ってセンセイはまた私に線引きした。
“わかってます”“認めます”そんな風に宥めるかのようにして。


『さ。そろそろ帰れよ』


私をそこから近づけさせないように、笑って距離を置いたんだ。


『―――じゃあ私は…その“距離”を縮めるまで』


勢いで返した返答に、センセイは一瞬驚いた顔を見せただけ。
曖昧なセンセイは、それに対してなんの反応も見せてはくれなかった。


「最近、なんかボーッとしてねぇ?」


意識を昨日の音楽室から引き戻したのはネット越しに背を向けて立ってた水越だった。


「なっ…に、急に。驚かせないで!」


体育館の冷えた床に、水越も座る。

そう。今は体育の授業中で。
男女分かれて授業してるけど、ネット越しで話せる環境だ。


「授業中も、休み時間も、なんか“心ここに非らず”」
「…水越に迷惑掛けてるわけじゃないでしょ」


我ながら可愛くない反応。
でもそれはわざとかもしれない。

水越を突き放すためのーーー