「ちょっ…せ、センセイ!」


センセイの長いコンパスの歩幅に慌てて小走りで追いかけながら呼び止めた。
センセイはドアの手前でぴたりと足を止めると、私を見て短く言った。


「“そのままの意味”」


聞き逃しちゃいそうなくらい、低く小さな、それでいてハッキリとした声で。

私は聞こえてたけど、頭の中で処理するのに時間が掛かってセンセイを呆然と見つめてた。
だけどセンセイは、もう用事は終わったとばかりに先に職員室から出て行ってしまった。


「……」


『そのままの意味』
そのままの、意味――――そのままの…


職員室の出入り口で、ぐるぐるとその言葉を反芻する。

次第に思考回路がはたらいて、呆けてた心にひとつの感情が湧いてきた。
その感情に任せて、ガラリと目の前のドアを開け、勢いよく廊下に飛び出る。


「真山センセイッ!」


そう呼び止めた私の声は廊下に響いただけで、その主はとっくに姿を消していた。