そんな静寂な私の世界を再び現実に引き戻したのは、センセイ。
瞬きもせずに映しだしていたセンセイが、ゆっくりと視線だけを私に向けて、目を合わせて言った。


「何か用?」


パチン、とまるで止まっていた時間(とき)が動いたかのように私はその一言が聞こえた後、何度も瞬きをした。
同時に、周りの雑音や、お弁当の香りも再び感じた。


「…あ、これ…」
「ん? ああ、早いな。別に明日まとめて集める時でもよかっ…」


私がそっと差し出した手にある紙を受け取ったセンセイは、すぐにその異変に気付いて言葉が途切れた。

その少しの沈黙に、私の心臓はバクバク鳴ってる。

センセイは、それを見てどうする?
なんて答える?
どんな反応をみせるの?

そんな疑問の答えは想像もつかなくて。
ただ、食い入るようにセンセイの動きを見つめて待ってた。

指一本の動きさえ、見落とさないように。


「吉井は購入ね」
「えっ…」


ギッと音を立ててセンセイが急に立ちあがりながら言った。

「購入」って、そりゃ、そうマルつけたけど…!
そんなあからさまな無視ってアリ?!

私の動揺を気にも留めずに、私が渡したプリントを裏返してデスクに置くと、センセイは私を通り過ぎてドアに向かった。